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INTERVIEW

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2023.04.17

国民的飲料ブランドがより幅広い世代に愛されるために

アサヒ飲料株式会社 マーケティング本部マーケティング二部 乳性グループ グループリーダー

山口真代

日本初の乳酸菌飲料として1919年に発売され、国民的飲料ブランドとしておなじみの「カルピス」。希釈タイプや「カルピスウォーター」をはじめ、機能性表示食品「カラダカルピス BIO(ビオ)」など、その商品展開は幅広い。アサヒ飲料株式会社で、「カルピス」および乳性飲料のマーケティングを手がける山口真代氏に、国民的ブランドならではのくふうをうかがった。

PROFILE
山口真代
アサヒ飲料株式会社 マーケティング本部マーケティング二部 乳性グループ グループリーダー 2007年にカルピス株式会社入社。研究所勤務での「カルピス」ブランドの商品開発業務を経て、2011年にマーケティング部に異動。2022年より現職。

ロングセラー飲料のマーケティングとは

―「カルピス」ブランドの認知率は90%を超えているそうですね。

山口 はい。おかげさまで、その味も含めて日本人のほとんどの方に知っていただいていると認識しています。一方で、「子ども向けの飲み物」「大人になってからはあまり飲まない」という声があるのも事実です。私たちとしては、こうした方々にも、日常的に「カルピス」ブランドの商品を手に取っていただくことを目指しているところです。ご家族でお飲みいただくことで、お子さまの飲料経験にも繋げたいですね。

―マーケティングのご担当としては、ブランドイメージが定着しているがゆえの難しさもあるのではないでしょうか。

山口 「カルピス」の生みの親三島海雲が、「カルピス」ブランドの本質価値として“おいしいこと”“体に良いこと”“安心感のあること”“経済的であること”を設定していまして、新商品の開発にあたっては、こうしたベースをしっかり継承した上で、お客さまのニーズやその時々の心情に寄り添うことを目指しています。ただ、守るべき部分と新たに作るべき部分の見極めはたしかに難しいですね。

―「お客さまのニーズや心情に寄り添う」について、具体的にお聞かせください。

山口 人々が飲料に求めるニーズには、“喉の渇きを癒す”“爽快でリフレッシュできる”“リラックスできる”“健康を感じられる”などがあると考えていまして、商品ラインナップの開発では、まずこの4つを網羅することを目指しています。例えば、「カルピスソーダ」は“爽快でリフレッシュできる”という位置付けです。
2022年発売の「カルピス THE RICH」は、“リラックスできる”という位置付けに加えて、コロナ禍で在宅勤務が増えたりした社会人が、平日の夜に自分へのごほうびとして飲みたくなるような、濃厚な味わいと高い品質にこだわって開発しました。こちらは「カルピス」ブランド新商品過去10年で初動売上1位※を獲得したのですが、新商品でも安心してご購入いただけているのは、「カルピス」として守るべき部分を踏襲しつつも、お客さまのニーズと心情を汲むことができたからだと思っています。※2023年1月時点、発売月を含む12ヶ月の出荷箱数

より幅広い世代で愛される「カルピス」を目指して

―“子ども向けの飲み物”という印象を持たれているとのことですが、幅広い世代に受け入れられるためにどんな取り組みをされていますか?

山口 「カルピス」のウェブサイトでは、「カルピス」を身近に感じていただくために、希釈タイプの「カルピス」を使ったレシピの提案などを行っています。「カルピス」ブランドを指名買いするお客さまを増やすためにも、こうした取り組みを継続して、毎日の暮らしの中で役立つ飲料であるというイメージを浸透させたいですね。
お客さまにお尋ねすると、“飲むと幸せな気分になれる”というイメージと、「『カルピス』を買いたい」という気持ちの相関が高いことがわかっています。“飲むと幸せな気分になれる”は、性別・年代を問わないものですし、誰が飲んでも日常生活の中で幸せを感じられることを伝えていきたいと思っています。

―「カルピス」の“健やかさ”は多くの人が認識しているでしょうから、その点を改めて納得してもらうのは難しそうです。

山口 世の中の興味、関心にあわせて訴求することが大切だと思います。当初から心と体の健康に根ざしたブランドにしようという方針はありましたが、それをよりしっかりと伝えていこうという判断から、「『カルピス』は乳酸菌の自然の恵みから作られている」ことをお伝えするようになり、現在は、発酵食品のブームで“発酵”の認知度が高まったことを受けて、その点を中心にお伝えしています。
その取り組みの一つが、「発酵のおいしさ発見プロジェクト」です。当初は日本の発酵文化を盛り上げるというコンセプトだったのですが、現在は、発酵から生まれるおいしさをよりしっかりと伝えるという方向で展開しています。2022年にオープンしたコンセプトショップ「発酵『CALPIS』PARLOR」(阪急うめだ本店)でも、「カルピス」やその他の発酵食品がおいしくて健やかであるというイメージを醸成するために、「カルピス」と発酵食品の仲間を組み合わせたドリンクやスイーツをご提供しています。

シニア世代の“ふだんの生活”に寄り添う

―“幅広い世代”にはシニア世代も含まれると思いますが、お客さまとしてのシニア世代をどのように捉えていらっしゃいますか?

山口 人口割合からいってもシニア世代のニーズは意識していますね。「カルピス」の希釈タイプには「糖質60%オフ」という商品があるのですが、60代以上の方によくご購入いただいています。シニアの方はどうしても活動量が低下しますから、糖質やカロリーの摂取量を気にされている方が多いのだと思います。
ただ、商品展開でことさら世代を強調するのではなく、「ふだんの生活に取り入れてみませんか」という見せ方を心がけています。例えば、加齢に伴って骨密度が低下することはよく知られていますから、カルシウム摂取のためにふだんから意識して牛乳を飲んでいる方が多いんです。そこで、希釈タイプの「カルピス」を牛乳に加えるといった飲み方を提案しているのですが、「カルピス」を主語にした伝え方をすると、あまり「カルピス」を飲まない方は取り入れにくくなってしまいます。そこで、「いつも飲んでいる牛乳に『カルピス』を少し足したらどうでしょう」と、なじみのあるものを主語にすることを意識しています。

― 郵便局で配布される『ニッポンどきどき探訪』をご活用いただきましたが、郵便局という場所にはどんなイメージをお持ちでしょうか?

山口 日本人なら誰もが訪れたことがある、日々の生活になじんでいる場所というイメージがあります。そうしたイメージは、「カルピス」ブランドが目指す、「日常の中でちょっと幸せを感じるために飲んでもらいたい」「どんな方も『カルピス』を日常に取り入れることができる」という思いと親和性が高いと思います。今後も、そういう方向性の取り組みでご一緒できることがあるかもしませんね。

“ちょっと幸せな気持ち”を世界に

―山口さんがマーケティングのお仕事をしている中で、意識していること、気をつけていることはありますか?

山口 私が扱っている「カルピス」は、人々の暮らしに寄り添う商品です。必需品ではないものを含めて、そうした商品があると日常生活がより豊かになる。そういうことを実感いただくために試行錯誤するのがマーケティングという仕事だと思っています。ひとりひとりのお客さまが生活者としてどんな暮らしをしていて、どんな提案をすればちょっと気分が上がるだろうとか、毎日の暮らしにプラスになるんだろうということを意識して、仕事をするようにしています。

―「カルピス」ブランドがどのように世の中に広まることを目指しますか?

山口 現在、「カルピス」ブランドの商品は約30の国と地域で販売しています。私は直接、海外戦略に関わっているわけではありませんが、2022年に設定した「カルピス」ブランドのパーパス「人と時をつなぐ、“甘ずっぱいおいしさ”がみんなの“幸せ”を増やして、世界の“ピース”に貢献する」にあるように、より多くの人々にもっと「カルピス」に親しんでもらいたいという思いがあります。“ちょっと幸せな気持ち”は、世界共通で共感いただけるものだと思いますので、多くの方に「カルピス」を飲んでいただいて、「ピース」がさらに広がっていけば嬉しいですね。