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INTERVIEW

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2023.12.15

「いつもそばにいます」を伝えるファンづくり

株式会社オニザキコーポレーション 通信販売課

橋口 智

1956年創業と、およそ70年にわたって“ごま”にこだわり続ける専門メーカー ・オニザキコーポレーション。独特の製法から生まれる「つきごま白」をはじめ、栄養価に優れた商品ラインナップはシニア世代に根強いファンを持つ。同社の核である通販事業における顧客とのコミュニケーションについて、販売促進を担当する橋口 智氏に聞いた。

PROFILE
橋口 智
2012年に株式会社オニザキコーポレーション入社。営業職を経て、2015年より現職。自社DM(リーフレット)『ごまだより』『食彩味紀行』のディレクションのほか、各種メディアでの商品PR等を担当する。

先進的な取り組みを重ねてファンを獲得

―御社の始まりは、佐賀県の小さな商店だったそうですね。

橋口 はい、自宅兼店舗でごまを販売していた鬼﨑商店が当社の前身です。当時、ごまは産地から仕入れたまま売られるのが一般的で、家庭で洗ったり、煎ったりする必要がありました。
そこで、すぐに食べられる状態にして販売したところ、「鬼﨑のごまはおいしい上に手間がかからない」と評判になったそうです。1980年代に電話での通信販売を始め、ネット通販も先代の社長の決断で1987年に参入しています 。

―もともと先進的な社風だったのですね。売れ筋商品をご紹介いただけますか?

橋口 売上も販売件数も不動の首位は「つきごま白」です。皆さんがふだん口にされる「すりごま」とは異なり、オニザキの「つきごま」は臼と杵の両方でつくような機械を使っているので 油分がたっぷりと引き出され、しっとりとしながらも香りが立ったごまに仕上がります。味には自信がありますし、お客さまからも「おいしい」と好評です。2016年発売の「オニザキの胡麻せんべい」もご好評を頂いていまして、販売枚数は累計1500万枚に達しています。

―ごまの「健康と美容にいいイメージ」は、健康志向のシニア世代と親和性が高そうです。

橋口 そうですね。実際、弊社の顧客層は70代が最も多くて約40%、80代が 30%、60代が17%と、高齢者が全体のほぼ9割を占めていまして、男女比では9割以上が女性です。ごまに含まれるビタミンEやセサミンは生活習慣病を抑えるだけでなく、老化防止や美容効果が期待できます。こうした点から積極的に召し上がる方が多いと認識しています。

どの客層に訴求するかはトライ&エラーの繰り返し

―最近の販促の施策についてお聞かせください。コロナ禍がひと段落したことで、何か影響はあったでしょうか?

橋口 業界全体の傾向として、2023年の初夏から秋ごろをピークに、売上・販売件数ともに大きく落ち込みました。背景には巣ごもり需要の反動や物価高騰、リベンジ消費で旅行や外食にお金が向かったことがあると考えていますが、オニザキの事情としては、前年に実施した値上げが影響したと判断しています。特に休眠傾向客と休眠客(※)の離脱が顕著でしたね。

そこで、この客層の購買意欲の喚起をねらって、2023年9月に「感謝箱」と題した企画を実施しました。以前から実施している送料無料サービス(一定の金額以上の購入者が対象)の基準となる購入額を下げて、サービスを受けられやすくしたのですが、結果は芳しくありませんでした。購入件数は増えましたが、稼働客(※)の購入量が予想以上に減ってしまい、顧客単価が下がってしまったんです。
ふだんからオニザキの商品に親しんでいるお客さまほど、この企画に魅力を感じていただけなかったようでした。

※オニザキコーポレーションでは、直近の購入が1年未満の顧客を“稼働客”、1~2年未満を“休眠傾向客”、2~4年未満を“休眠客”、4年以上を“離脱”と区分している。

―どのお客さまの層に向けた取り組みを優先すべきかの判断は難しいですね。

橋口 おっしゃるとおり、トライ&エラーの繰り返しです。ただ、「まずは継続的に購入いただいている方のことを考える」という指針を持てたことはよかったと、今ではポジティブにとらえています。当時はかなり落ち込みましたが(笑)。

納得したいシニア世代とのコミュニケーション

―新規顧客の開拓についてはいかがですか? シニア世代が主要な顧客である御社ならではの工夫はあるでしょうか?

橋口  効果を感じるのは新聞広告です。以前はレスポンス広告として出稿していたのですが、社長や従業員の顔が分かるブランディング広告に切り替えたところ、すごくいい反応が得られました。シニア世代には「しっかり納得して購入したい」という方が多いので、テレビやラジオは情報が速すぎるのだと思います。新聞離れが進んでいると聞きますが、少なくとも当社のお客さまとは相性がいいようです。切り抜いた新聞広告を読み返して購入を決めるという方が結構いらっしゃいますから。

―コールセンターでは、お客様から生の声を聞くことがあると思います。どのように対応していますか?

橋口 商品の案内だけでなく、お客さまの声を聞く機会としても、コールセンターの役割は非常に大きいです。例えば、オニザキの「つきごま白」は1箱5袋入りですが、独居のお客さまからは「なかなか食べきれない」という声が寄せられることがあります。とはいえ、顧客単価の面から1箱3袋入りにすることも難しい。そこで、お電話口で「みそ汁にもごまを入れてみたらどうでしょう」とか、「スーパーのお惣菜にもかけてみてください」と、できるだけいろいろなシーンでごまを使ってもらうことをご提案しています。

もちろん、お客さまのベネフィットを同時に伝えなければ納得してもらえません。改めて健康・美容面のメリットをしっかりお伝えすることを徹底したところ、アウトバウンドの売上が非常に伸びました。
社長からは「すぐに注文に繋がらなくてもいい」「まずはコミュニケーションをしっかり取るように」と言われています。時代が変わっても、といいますか、変わったからこそ、1対1の人情味ある対応力が問われると思います。

「オニザキは、いつもあなたのそばにいます」と 伝え続ける

―2025年には“団塊の世代”が75歳以上になるなど、高齢化はますます加速していきます。中長期的にどのような展望をお持ちですか?

橋口 高齢化が進めばシニア世代が増えるわけですから、「2025年問題」もオニザキの新たなファンを獲得するチャンスと前向きにとらえています。お得意さまに向けては、百貨店の外商のように個別に訪問して新商品をひと足先にご案内するとか、オニザキ会のようなイベントを開催するとか、一層コアなオニザキファンになっていただく取り組みができないかと考えています。

私が販促を担当する前の話ですが、毎月発行の自社DM(リーフレット)『ごまだより』を、隔月発行に変更したことがありました。『ごまだより』は直近の商品購買日が近い10万人に送付するので、先月買ったばかりの方にも届きます。当社のごまの賞味期限は半年ですから、当時の担当者は「買い足しのタイミングを考えると、毎月送付しても意味がない」と判断したのですが、売上が大きく減少してしまい、すぐに毎月発行に戻したそうです。ある程度のコストはかかっても、「オニザキはいつもあなたのそばにいます」と伝え続けることが大切なんですね。

―マーケッターとしての橋口さんのやりがい、今後の夢を教えてください。

橋口 当社では、何かあったら社員が総出で対応できるように、販促や営業サポートの部署とコールセンターを同じフロアに配置していまして、私もお客さま対応をすることがあります。

以前、ご主人を亡くされて気落ちしているというお客さまに、「『ごまだより』に掲載されているレシピを見て料理をするのが生きがい」とおっしゃっていただいて、少しはお客さまに寄り添うことができたのかなと、涙がこぼれました。

私自身、お客さまと話すのが大好きなので、お客さまをもてなすホスト役のつもりで仕事をしています。コアな常連客がいるスナックは決して潰れない。そんなイメージでしょうか。いつか本当に、お客さまとお酒を酌み交わせたら楽しいでしょうね。